色気
暁子は自分に色気がないといつも思う。
密かに色気について調べてみたり、
色っぽくなるHow toを調べたりもした。
ダイエットをしてこまめに運動すれば、
少しはスマートになれる。
肌の手入れをし丁寧にメイクすれば、
ちょっとは可愛くなれる。
似合う髪型にすれば、
今よりは魅力的になれる。
小ぎれいな洋服を着れば、
少しはオシャレになれる。
何かに夢中になれば、
イキイキ出来る。
でも、それは色気とは違うように思えた。
何かが足りない。
ある日、暁子は
大人の色香を感じる美しい女性に、
自分に色気が足りないと思うことを
話してみた。
美しい女性は、
「恋をしていないからよ」と、
さらりと言った。
「私は恋をしても片思いばかりだわ」
と暁子は思った。
美しい女性は黙って俯く暁子を見て、
こうも言った。
「恋はね、するものじゃないの、
落ちるものなの。
頭で考えてどうこうできるものじゃないの。
情念なのよ」
「私は逃げているのかも知れない」と、
暁子は思った。
誰かを真剣に好きになって、
その誰かを絶対に欲しいと思う
自分の気持ちから逃げている。
自分が欲しいものを絶対に欲しいと
思うことから逃げている。
暁子は「欲しいものを欲しい」
と言えない 自分を
いつも受け身だった自分を
欲しがることに罪悪感を覚える
自分を思った。
「欲しいものが欲しい」
心に浮かぶある男の姿を、
もう打ち消そうとはしなかった。
「もう逃げない、
欲しいものが欲しいのだから」
その時、暁子は自分の心に
今まで感じたことのない情念が、
渦巻いて居るのを感じた。
色気だと思った。
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