ごめん堪忍してな

弘樹がもう何度目かわからん*ODを

したのはクリスマスの朝やった。 

私が朝、目を覚ますと 

ロレロレの弘樹本人から電話があった。


「またODしてもうた」 

「またなん?!」 


と言ったけれど、 

気になって弘樹のアパートに行った。 


郵便受けから鍵を取って 部屋に入ったら、

弘樹はいびきをかいて寝ていた。

何をしてあげられるでもなく、

寝ている弘樹の顔を眺めていた。


弘樹は売れない画家で生活の為に 

カルチャーセンターの絵画教室で 

講師をしている。

私は作家志望で、

弘樹と同じ カルチャーセンターの

事務員をしている。 

そこで弘樹に出会った。


絵のことは何もわからなかったけれど、

私は弘樹の描く花の絵が好きやった。

ある時、弘樹に絵を見せてもらっていたら、

「由紀子さん、 

気に入ってくれたんやったらあげるわ」 

と言ってシクラメンの絵をくれた。 


それが親しくなったキッカケやった。

 画家の弘樹と作家志望の私、

 同じ表現者として気が合った。 


 弘樹の絵は本当に穏やかで優しく、

 ファンもけっこういる。 


「どこかのギャラリー借りて個展をしたら?」

「いや僕はまだ修行中の身やし」 


「今度、美術館でコンテストがあるよ?」

 〆切ぎりぎりになってから、

「やっぱり僕は遠慮しとく」


「弘樹さんの絵のファンです。 

この絵を売って下さい」

「いえ、買ってもらうなんて恐れ多いです」


こんな調子で弘樹はいつも 

チャンスから逃げてばっかりやった。


恋愛に対しても同じで逃げてばかり。

ほんましょうのない 

「あかんたれ」なんやから。


あ!私は弘樹の恋人と違うよ。

弘樹には麗子さんと言う 

恋い焦がれている女性がいる。 

私はと言うとそんな弘樹がずっと好きで、

ほっておけずに側にいる。

なんのことない私もアホですわ。 


 弘樹の寝顔を見ながら、 

そんなことをしみじみ考えていた。


今度のODのキッカケはなんやろ? 

麗子さんに新しい男の人ができたんかな?

カルチャーセンターの生徒数が減って 

教室存続が厳しいのかな? 

思うように絵が描けへんのかな?


今まで何度こんなことがあったやろか?

そやけど知ってる弘樹? 

弘樹が麗子さんのことで辛そうな時、

私がどんな気持ちで弘樹を見ているか。

カルチャーセンターを首になったら、

弘樹がどうして生活していくか 

どんだけ心配しているか。 

弘樹が絵を売り込むことから

逃げてばかりいる時、

どんなにもどかしい思いしているか。


弘樹、さすがに私も疲れてん。

弘樹のことを嫌いになったんとちがうねん。

もうしんどなってん。

辛なってん。 

堪忍してな。 


私、小さな文学賞やけど賞を取ってん。

ある作家先生が「うちへ勉強においで」 

と言ってくれてはるねん。 

もうじきこの街を離れるねん。


弘樹の部屋に来てから 

どのくらい時間が経ったやろうか。

やっと弘樹は目を覚まして、

私の目を見て言った。

「あ!由紀子さん来てくれたんや。

ありがとう」 


私は気持ちを見抜かれたようで 

ドキッとした。

曖昧に笑ったけど物凄く胸が痛んだ。

弘樹を見捨てて行くようで。

ごめんな、弘樹。


弘樹は珍しく、

じっと私の目を見てもう一度いった。

「由紀子さん、いつもありがとう」


でもなんでやろ、 

一度も私を振返ってくれへんかったのに。

 勝手なことばっかり言って

私を振り回してばっかりやったのに。 

困った時だけ頼って来たくせに。

わからんけど、めちゃくちゃ悲しいわ。


 ごめんな弘樹。堪忍してな。



鬱・夫の死を克服した作家:村川久夢の部屋

こんにちは、村川久夢です。 鬱や夫の死のために人生を投げていた私が、やっと取り戻した夢は、自分の思いを書くことでした。自分の思いを書くことで長年苦しんできた「生きづらさ」の正体も見えてきました。生きづらさ、鬱、大切な人の死に苦しむ人と私の経験をシェアしたいと思っています。ここにはそんな私の作品を投稿しています。 <著作> 『大丈夫、きっと乗り越えられる~鬱・夫の死を克服した私からのエール~』

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