自分を大事にできないあなたへ

診察が終わると、

心療内科の医師が志保に言った。


「もっと自分を大事にしてあげて」


もっと自分を大事にしてあげて、 

と言われても志保には正直なところ、

どうすればいいのかわからなかった。 


「そんなこと言われても、

どうしたらいいかわからない!」 

と少し腹を立てた。


処方箋を持って薬局に行き、

逃げるようにタクシーに乗って

家に帰った。 

バスに乗る元気がなかった。


鬱を患って4年経った。

急性期の辛い症状は脱したけれど、 

すっきりできずに 

病気は一進一退を繰り返していた。


自宅に着くとすぐにパジャマに着替えて、

ベッドに潜り込んだ。

考えてみると診察日以外は、

志保は一日中パジャマを着て、

ベッドでゴロゴロ過ごしていた。


髪はザンバラ肌はガサガサだった。  

そんなある日、志保は、 

いつもよりも少し早く起きることができた。

珍しく肌の手入れをしてみる気になった。 

コットンを使って丁寧に

化粧水や乳液を顔につけた。 


それだけなのに肌がしっとりしたようで、

少し気分が良くなった。

せっかくなので少しメイクもしてみた。


 バサバサの髪には、

 トリートメントをつけて、

 サイドアップにしてみた。


うれしくなって、 

お気に入りのワンピースを

着てみる気にもなった。 


なんだか気分も良くなって、 

不思議なことに 外に出てみる気になった。


外に出るといつもは軽く目礼するだけの

隣のおじさんに 

「志保さん、お出かけですか?」

と声をかけられた。


バス停でバスを待っていると、

 知らないおじいさんが、

「そこは風が強いから こっちに来なさい」

と言ってくれた。  


美味しいと評判のパン屋さんで、

噂のミニクロワッサンを買うと、

おにいさんが、

内緒で 1つおまけしてくれた。 


なんだかみんながいつもよりずっと、

丁寧に志保に接してくれた。 

志保を大事にしてくれた。


考えてみると、

志保はいつも自分を後回しにしていた。

自分を大事にしていなかった。 


「私は自分の肌や髪や服装と言った、

小さな手間も自分にはかけてこなかった。

誰よりも自分を粗略に扱っていたのは、

他でもない私だったのね・・・」

と志保は思った。


「自分を大事にする」とは、

そんなに大げさなことではないようだ。

自分の肌や髪や身体を労ってあげる。 

自分の好きな物で自分を飾ってあげる。

自分の好きな物を買ってあげる。

自分の行きたいところへ、 

自分を連れて行ってあげる。


「なんだ~『自分を大事にする』って、

 そんなに難しいことじゃなかったのね」

 と志保は思った。  


志保はパン屋のおにさんが、 

おまけしてくれたミニクロワッサンを

 一つ取り出して食べた。 

とても美味しかった。


 小さなことからでいいから、

 自分を大事にしてあげようと思った。

 きれいにメイクして、

 お気に入りのワンピースを着て、

 自分を大事に思い始めた志保の笑顔は、

 とてもチャーミングだった。


鬱・夫の死を克服した作家:村川久夢の部屋

こんにちは、村川久夢です。 鬱や夫の死のために人生を投げていた私が、やっと取り戻した夢は、自分の思いを書くことでした。自分の思いを書くことで長年苦しんできた「生きづらさ」の正体も見えてきました。生きづらさ、鬱、大切な人の死に苦しむ人と私の経験をシェアしたいと思っています。ここにはそんな私の作品を投稿しています。 <著作> 『大丈夫、きっと乗り越えられる~鬱・夫の死を克服した私からのエール~』

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